MEMOS

ちょっと書き留めたかったことなど。

ZEN THE HOLLYWOOD (ぜんハリ)「深澤大河卒業イベント」

 6月10日(土)カレッタ汐留

 トラちゃんの卒業は「おめでとう」ではなく、「いってらっしゃい」だった。

 6月7日に梅雨入りが宣言されたばかりだというのに、この日は今年一番の暑い日だった。

 CD販売開始の16時半とほぼ同刻に私が到着したとき、タワーレコードミニ汐留店の外周にはぐるりと列ができていた。いつも見る方や久しぶりに見る方、いろいろな方がいたけれども、会場に悲愴感はなかった。むしろ、トラ推しも他推しも含めて、他界したファンがかなり足を運んでいたようで、和やかさが感じられるほどだった。

 当初のタイムラインでは、16時半にCD販売開始、17時半リハーサル、18時特典会開始、19時半イベント開始の予定だった。けれども、予定通りに進んだのは、16時半のCD販売開始だけ。しかし、それと引き換えに、販売開始当初に決めた10枚の枚数制限を動かさず、途中でCD販売を打ち切らずに並んだ人はすべて買えるようにした。これは運営スタッフの英断、店舗の協力のおかげだと思う。

 トラちゃんの卒業が発表されてから、5月末時点では日程を調整している状態だった。準備の慌ただしさは、このグループには似つかわしくない「深澤大河卒業イベント」というシンプルなタイトルからも、容易に察せられる。『弱虫ペダル』の撮影のなか、スケジュールの合間を縫ってステージに立ってくれたトラちゃん、わずかな準備時間でステージに立ったメンバー、マネージメントしてくれたトラちゃんの事務所、イベント開催のための段取りをつけた運営、場所を貸してくれた店舗、直前までステージを調整していた設営スタッフ。このイベントをやるんだ、という強い意思を、アイドルも裏方も含めて、こんなに強く感じたイベントは初めてだった。開催決定からトラちゃんがステージを降りるまで、ギリギリまでアイドルと俳優を両立させようとしたトラちゃんの思いと、ギリギリまでそれを支えようとした人々の、ギリギリの臨界点を見せられているようだった。

 リハーサルは18時頃にスタートした。ステージ脇に姿を現したトラちゃんは、髪の色が赤みがかっていて、『弱虫ペダル』の鳴子くんがトラちゃんになって出てきたようだった。5人で歌うのは1曲だけ、その1曲は「永遠never ever」になることが、事前に投票で決められていた。頭サビは全員で歌った。音響スタッフとのやりとりは阿部くんがしていたのだけれども、バミはトラちゃんがテープを握りしめて黙々と貼っていた。皇坂くんはその姿を見守りながら手伝い、笠井くんと横山くんは後ろでなにか話していた。ここのところ、4人でインストアイベントをしているときは全員で確認していることが多かったなと不意に思った。それと同時に、トラちゃんってこういう役割だったんだなと、いきなり腑に落ちた。4人での活動が続いて、ひとつの形が見えてきたこともあるからこそ、トラちゃんがいるときといないときのバランスの違いは明瞭だった。

 リハーサル終了の直後にトラちゃんの特典会が行われた。グループショット、個別握手会、2ショット、サイン会。

 イベントが始まったのは20時半近く。「永遠never ever」の頭サビは、トラちゃんのソロだった。私はこの曲に票を入れた。この曲はいつも、そのときのぜんハリの生き様を映しだす曲だから。だから、ぜひともこの曲を歌ってほしかった。

 頭サビの終わり、胸を張って出てくるトラちゃんの瞳は輝いていた。そのキラメキは、卒業もなにもかも忘れさせ、その瞬間にその笑顔があるから世界は輝いて見えるんだと思うくらいのキラメキだった。かなり後方から見ていたから距離はあったはずなのだけれども、照明で反射して光る八重歯のキラメキまで見えると思うほど、トラちゃんが近くに感じられた。推しがどんな表情で仲間の卒業を見送ろうとしているのだろうなどという考えは露ほども浮かばず、私はトラちゃんに夢中で、一心不乱に黄色のペンライトを振っていた。この日の私の心に強く残った一節は「君がそこにいる 今が強いんだ」だった。

 メンバーからトラちゃんへの言葉、トラちゃんからの言葉。最後にひとつだけワガママを、とトラちゃんが最初の自己紹介をしてくれた。このバージョンを聞くのは私は初めてだった。私が知らなかった時期も含め、4年間の活動にかけてきたトラちゃんの思いがストレートに伝わってくる渾身の自己紹介だった。

 そして「エアボーイズ」。頭サビを歌って、ステージを去るトラちゃん。私、号泣。一瞬前まで5人のぜんハリだったのに、次の瞬間には4人のぜんハリが力強く飛び出してきた。この4人は、4人での活動が続くなか、4人でステージを完成させながらも、5人でぜんハリなのだとトラちゃんの場所を残し続けてきた。これからは4人でぜんハリ。トラちゃんがステージを去るわずかな時間すら感傷に浸らせてくれない姿は、とても逞しく、美しかった。最後に「青春HAS COME」を歌ったときには、「やっぱりゆーまが好きだな~」とか思っていたので現金なのでしょうか。それとも、4人がそう思わせてくれたのでしょうか。

 なんにせよ、「エアボーイズ」は本当にズルいと思った。俳優としてのオーディションだったのに、蓋を開けたらアイドル活動。「夢の上書きが不安消すように」って残酷すぎやしないかと、初めてぜんハリの「エアボーイズ」公演を見たときの私は思ったのだった。でも、トラちゃんの、俳優になるという当初の夢は、アイドル兼俳優になるという夢になり、そして再び俳優になるという夢に上書きされた。4人のメンバーも、5人で活動を続けるという夢から、4人で活動するという夢に上書きされた。夢を上書きするにはエネルギーが必要で、しかも、必ずしも希望通りに進むわけではない。ただ、生きているかぎり、夢に最終版はない。何度も離発着を繰り返す飛行機のように、何度でも夢は上書きされ、夢に向かって飛び立てる。ぜんハリにまたひとつ、人生の真実を教えられた。

 深澤くん、いってらっしゃい。いままで本当にありがとう。夢はでっかくハリウッド!本当にハリウッド俳優になって、テレビであの自己紹介やってるところが流れたら面白いね。

 4人のぜんハリも、いってらっしゃい。私はぜんハリの影を追い続けるよ。